塗らないおんな

ふとカフェで隣になった美しい人が

爪先に何も色をつけてないとハッとする。

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目尻に美しいカーブを描いたアイラインと

トレンドのカラーマスカラからは

想像出来ないほど、

短く切り揃えられた素の爪。

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お仕事はナースなの?

それともお料理が趣味だから?

色々な想像を掻き立てられる。

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かく言う私は、厳しい学校に

長年居たせいか、自由を得てからの

ネイルへの情熱がすごかった。

大学生時代は10本にスカルプをつけ

イルカやらクリスマスツリーやら、

ありとあらゆるアートを施しては、 

授業中にうっとり眺めたりしていた。

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電車の中でマダムに、

「あなたそれどうやって缶を開けるの?」

なんて聞かれたりして。

懐かしい思い出だ。

出来る事なら手元まで美しくしていたい。

ファッションに合わせていろんなネイルを楽しみたい。

それがきっと女心だからこそ、

つるりとした手に赤ちゃんのような

素の爪を見ると、どきりとする。

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丁寧に施されたメイクからは

明らかに美容が好きな事が取って見れるのに

その爪先を彩る事を諦めるほどの何か。

それを選んだ潔い気持ちに、

なんとも女の色気を感じるのである。

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美容はあくまでオプションくらいが

ちょうど良い。

自分の人生を真っ直ぐに生きていて、

少し物足りないくらいが美しい。

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塗ったばかりの完璧な爪先を眺めて

私は改めて思うのである。

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